PROJECT STORY冷間鍛造の未来を拓く
医療用酸素容器国産化を実現した
「チーム三協」の挑戦
PROJECT MEMBER
今までにない相談が寄せられる

渋谷
海外製だと、万が一不具合があった時のサポートも受けづらいですからね。やはり、何かあった時にすぐ対応してくれる国内メーカーのほうが望ましい、ということも大きかったようです。

村上
お客様としては国内生産ができれば、QCDS(品質・コスト・納期・サービス)全体で安心に近づくんじゃないかという期待がありました。だからこそ、単にコストだけでなく、そういった手厚いフォローも含めてご提案できるように準備を進めていきました。

渡部
ただ、この話が来た時に最初に思ったのは、「そもそも鍛造でこんな形状ができるのか?」というものでした。元々の海外製品は全く違う工法で作っていましたから。

村上
当社が得意とする冷間鍛造は、均等にまっすぐ伸びるのがメリットです。ところがこの製品は、円筒型で胴部が薄く、開口部に向かって厚くなる形状でしたからね。

髙石
最初に図面を見た時、私も「厚みをこんなに変えられるか?」と疑問を持ちました。今まで均等な厚みしか扱ってこなかったですから。

それでも
お客様の期待に応えたい

村上
自分たちでも「作れんの、俺ら?」みたいな空気はありましたよね。だからこそ、お客様との信頼関係の構築には慎重になりました。よく「報連相」と言いますが、お客様の要望を満たせない時こそ相談をする。ネガティブな情報は出しにくいですが、言うべきことは言わないといけない。「形にはなるけれど傷ができてしまう」「ここの形状を変えたい」。現状をしっかりお伝えした上で、お客様と同じ方向を向いて、解決策を模索するようにしました。

渋谷
お客様のほうでも「作れなかったらしょうがない」という考えも少なからずあったはずです。私自身、かつて似たような形状にトライして頓挫した経験もありましたので、正直不安は大きかったですね。

村上
それでも、お客様の「ぜひチャレンジしてほしい」という熱意と、我々の「期待に応えたい。チャレンジしてみたい」という想いが合致したんですよね。


どのプレスを使い、どう工程を組むか

渡部
具体的に進めていくにあたり、まずは私のほうで工程設計を行いました。お客様から頂いた図面を基に、どのプレス機を使うか、材料のサイズはどうするか、何工程で仕上げるかといった素案を作ります。
今回は渋谷にも検討に入ってもらいましたが、やっぱり「鍛造では考えられない形状だな」というのが第一印象でした。

渋谷
一般的に、こういった形状は「深絞り」という工法で作るものなんです。1枚の板に圧力を加え、容器のかたちに絞っていくやり方です。でも、日本国内でこのサイズの深絞りに対応できるメーカーがない。
だから、お客様は「工法は違ってもいいから、日本のどこかでできるところはないか」と探して、我々に辿り着いたわけです。

村上
まさに「見切り発車」でしたね。試作段階で終わる可能性も大いにありました。成功確率は五分五分、いやもっと低かったかもしれない。

渡部
そうですね。最初からうまくいく見込みがあったわけではありません。 確かにうちは冷間鍛造には自信があって、他社ではなかなかできないような大径長尺品も得意ですが、こればかりは未知数でした。

新しいものづくりに胸が高鳴る

渡部
確信がない状態でスタートしたものの、お客様としては「とにかく早く国内で調達したい」というのが本音です。

村上
お客様にも開発スケジュールがありますからね。我々が納めてからの後工程も控えているから、待たせるわけにはいかない。我々のゴールがお客様のスタートなんです。

渋谷
難しいことはお客様も承知で、いろいろと歩み寄ってくれたんですよね。 どうしても日本で作りたいという想いがあるから、我々が少しでも作りやすい方向に図面を調整してくれたり、相談に乗ってくれました。

渡部
そうやって相談を重ねて仕様が決まり、試作がスタートします。 ここからは技術課が主導で進めることになりますが、特に今回は初めてのケースでしたので、試作後の量産に向けた課題や改善の打ち合わせにも参加して、フォローを続けていきました。
「本当にできるのかな」という心配はもちろんありました。ただ、神経は使いますけど、それ以上に「新しいものづくりの楽しみ」にワクワクする気持ちも大きかったです。

髙石
不安はありましたが、「やってみたい」という想いは強かったですね。


正攻法では超えられない

渋谷
いざ試作を始めてみると、案の定うまくいきませんでした。胴部と開口部の厚みの差をシゴキ加工(アイヨニング)で調整するのですが、厚みの差が大きくてちぎれてしまうんです。
そうならないように、どうバランスを取って力を分散させるか。最初は原理原則に基づいて正攻法で挑みました。
縦型の油圧プレスを使ってみたんですが、うまく金型から製品が外せなくて……。

渡部
あの頃は本当にひどい目に遭ってばかりでしたね。
金型への張り付きが強すぎて、抜く時にすごく圧力がかかって「かじり(焼き付き)」が起きる。製品に縦傷が入ってしまうんですね。

髙石
最初の頃はその傷を消すための手直しばっかりでした。傷が入ると強度が落ちるし、医療用としては致命的です。それを渋谷さんたちが手作業で直していましたよね。

渋谷
そう。でも、1本直すのに手作業で1時間かかったりする。24本仕上げるのに丸1日。そんなことではとても量産化なんてできません。最初の頃は、小さな傷も含めると作った製品の半分くらいがダメでした。

村上
手直しをしなくてもいいような量産工程をどう確立するか。それが一番の課題でした。

思いつきを実行に
移せるのが三協製作所

渋谷
転機は、製品を金型から引き抜くための部品の構造を変えたことでした。 従来の方法では、固定された部品にぶつけるような仕組みで製品を剥がすように取り外すのですが、それだと製品に傷が付いてしまう。下手したら金型自体も壊れてしまうんですね。

村上
そこで渋谷さんが考えたのが、そのぶつける部品を固定ではなく可動式にするというアイデアでしたね。

渋谷
ええ。ぶつかったときの圧力を吸収できるような仕組みにすればいいんじゃないかと。 正直、これ自体は誰でも思いつくようなアイデアなんです。ただ、それをすぐに実行できたのが良かった。

渡部
当社には社内に工務課があって、自前で金型を作れますからね。外注だと何カ月もかかるところが、すぐにトライできる。

渋谷
そうなんです。思いつきでやってみようと思って金型を修正したら、あんなにひどかった傷が嘘のようになくなった。
それに、 工場長も元々技術屋なのでいろいろとアドバイスをくれたり、「失敗してもいいからやれ」と背中を押してくれたことも大きかったです。現場への理解があり、新しいことに挑戦しやすい会社だと改めて実感しましたね。


太陽光の下でしか見えない傷

髙石
製造現場が形にしてくれましたが、“品証”としてはここからが本番です。「そもそも測定できるの?」というところからのスタートでした。
なだらかに肉厚が変わる製品の、どこを境目として測ればいいのかわからない。そして何より厳しかったのが「傷」の判定です。お客様からは「内径は後戻りできない(修理できない)から特に重要視してほしい」と念を押されていました。

村上
医療用の酸素容器には製造から15年の耐用年数が定められていて、5年に1回は市場から回収して内視鏡検査が行われますからね。内径の品質は絶対です。

髙石
ところが、この内径の傷が厄介で、工場の蛍光灯や普通のLEDライトでは見えないんです。
「太陽光の下なら見える」ということがわかり、それに近い波長の特殊な光源を探し出して導入しました。
少しの傷でも厳しく指摘していますので、プレス機を動かしている製造現場からは「なんでこれでダメなのか」という声もありましたよ。

渋谷
芸術作品を作っているわけではないですからね。
そこまでこだわる必要があるのかと。それでも、現場の人たちにも段々と理解が浸透していって、全社で一致団結して取り組むことができました。

納品してからも、
品質の追求は続く

村上
試作を見たお客様は、「従来製品よりも精度が高くて、後工程にスムーズに入れる」と喜んでいただきました。
そうして無事量産へと進み、初出荷を迎えました。でき上がった製品を見てうれしかったですし、お客様の安心した顔を見て、営業としてはそこで一つ、ホッとしましたね。

渡部
自分たちで設計して、苦労して試作したものが世に出ていく。「やった甲斐があった」と達成感を感じる瞬間ですね。

渋谷
最初のどうにもならないようなところから、段々とかたちになってきて、ついにここまで来たか、と感慨深かったですね。

村上
髙石さんももちろんホッとして……

髙石
しません!

村上
そうなんですよね。
これが役割の違いなんです(笑)

髙石
品証としては、旅立ったからホッとした、ではなく「これからだな」なんです。 形になって出荷はできたけれど、これからどうやって安定生産していくか。不良品を流出させないようにどうするか。
「何も連絡が来ない日が一番いい日」。そんなことを思いつつ、不良率をさらに下げるにはどうすればいいか、日々検討し続けています。うちの部署の仕事は、納品して終わりではなく、そこからが本当のスタートですから。






村上
きっかけは2022年の秋。お客様から「これまで海外から仕入れていた医療用の酸素容器を、国内で製造したい」と相談を受けたんです。
背景には問題が2つありました。1つは経済的な理由、つまり円安による輸入費用の高騰です。もう1つが、商習慣の違いによるリスクです。日本と海外ではものづくりに対する考え方が違います。
「何月何日までに欲しい」と要望を出しても、本当に来るのかどうか確証が持てない。そうした不安要素を抱えていたんです。